何もない、でも価値のある地方都市へ
故郷のまちづくりへの原動力とは

IMA-ZINE INTERVIEW VOL.29

元気なまちで、今(いま)を生きる、元気な人(じん)にインタビューするコーナー。

矢崎 高広
Takahiro Yazaki

INTRVIEW WITH KITAHARA JACKSON YU   TEXT BY TANAKA YUKIKO


今回のゲストは矢崎高広さんです。
矢崎さんは東京・神奈川でのサラリーマン生活の後、6年前、家族とともに地元茅野にUターン。それからは本業のかたわら観光を絡めたまちづくりに尽力しています。
2022年に新しく立ち上がった株式会社8peaks familyの一員でオーナーでもある矢崎さんに、まちづくりや観光にかける思いと展望を伺いました。


北原ジャクソン友(以下、北原):カンパーイ!
今回はやっと念願叶って高広さんにきてもらえましたね。何回フラれたことか!(笑) 今日は茅野のまちづくりにかける高広さんの思いを聞いていきたいと思います。

矢崎高広さん(以下、矢崎)都会から帰ってきて、JC(諏訪圏青年会議所)の活動などをきっかけに始めたという感じです。最初から観光をやりたかったわけじゃないんだけど、まちづくりの手段として観光がいいのかなと。例えば諏訪地域でいえばGDP的に見て大きいのは製造業。でもいきなり部外者が口を出すわけにはいかない。でも観光って誰でも「行って」「SNSにあげる」っていうだけでも貢献できるんです。

楽しそうな親父の背中

北原:僕も高広さんも親父たちを見てきましたよね。

矢崎親父は家にほとんどいなくて母子家庭みたいだったし、嫌なことも当然あったけど、親父を見ていると「大人って楽しそうだな」って思ってた。
都会で働いているとき、定年を前にした人たちが順次役職から外れていくのを何度も見たんだけど、するとそれまで取り巻いていた人たちがさーっといなくなる。それってその人を見ているんじゃなくてその人の役職を見ているだけで。その点こっちの大人は肩書きじゃなくその人自身を見ている。社長を引退しても○○さんは○○さんのまま。
うちの親父は72歳で亡くなったんだけど、ずーっと青春の中にいたと思う。お父さんたちの青春。そういうのって都会から見ると羨ましいんじゃないかな。会社やめてもいてくれる人がいる。そうやって親父たちみたいにみんなとずっとワイワイできる共通のテーマは何かと考えたら、まちづくりだったんです。

北原:そうこうしているうちにいろんな人が集まってきましたよね?

矢崎:仲間になってくれそうな人のインサイトの不満、不安、不便を考えてみんなでそれを解決する形で、Iターン、Uターンに限らず、地元の変わった人もどんどん巻き込んでいきたいと思ってる。遠慮せずまちをよくするために勉強して、稼いでいく。それらを居心地よくやる。まじめな話をしてもバカにされない、熱いことを言っても青臭いと言われない。そういうのが好きな人が集まってきてくれたと思います。

「何もない」がある

北原:田舎の魅力ってなんですかね。

矢崎:あるとき都会のビル群が、石、岩がいっぱいあるだけのように思えてきたんだよね。すごく無機質で、便利だけど物足りない。人は自然を欲するんだと思う。その点こちらには「何もない」がある。都会は「何もない」がない。「何でもあるがありすぎる」んです。
都会って「マスプロモーションの罠」がいっぱいあるでしょ? それって一見最先端をいっているようだけど、消費を続けるために稼ぎ続ける仕組みになっている。お金を使うために生きて稼ぎ続けている。田舎では心の安定や充足感もお金をかけないでも得られる。
iPhoneが出たのが2010年よりちょっと前。この10年ちょっとで誰もが手元でネットを使えるようになって、生活が大きく変わった。これまでだったら何十年もかかるくらいの急激な時代の変化で、これからはもっと早くなっていく。
日本は国内に1億2000万のマーケットがあるから、ずっと内側に目を向けて経済を回してきた。反面韓国は人口が少ないからそもそも外に目を向けてやってきている。それがK-POPの世界進出とかに現れている。国内に目を向けていることが悪いことばかりじゃないんだけど、今後、少子高齢化が進み市場が縮小する日本では、このままでは茹でガエルの法則でじわじわと死んでいってしまうことになりかねない。
パソコンだってテレビだってもうモジュール化されてしまって、どこのものでも同じ。日本製じゃなきゃっていう理由はない。自動車もEV化したら、そうなるかもしれない。その時の地域経済への影響を考えたら、ゾッとする。

戻ってきたいと思える田舎であるために

矢崎:茅野に限らず日本の将来って結構暗いと思っているんです。子どもは減る。働ける人が減って高齢者が増えて介護費用が増える。道路なんかのインフラは整備が必要になって……出るお金が増えて入るお金が減って立ち行かなくなる。
そんなことを考えていたとき、国が発表している輸出産業のランキングというのを見たら、その中でインバウンド観光が3番だった。コロナ前の統計だけど、3番だよ? 半導体とか自動車部品よりも上。諏訪地域はそのころあまりインバウンドに力を入れていなかった。今後国が貧しく、国民が貧しくなっていくのなら、お金があるところから回ってくるようにするしかない。
だから最初の話に戻るんだけど、観光がやりたいわけではなく地域を豊かにするための手段として観光がいいんじゃないかと思ったんだよね。そして観光で流れてきた外からのお金を地域の中で回す。そういう循環を作りたい。
親父が亡くなる数年前に帰ってきて、最期は家族で囲んで見送ることができて、それなりに親孝行ができたんじゃないかと思ってる。その経験から自分の最期の時も、息子や息子の家族と一緒に過ごせたらいいなって思うようになった。それにはまず、田舎で暮らしていくのも楽しそうって思える姿を見せておくことと、自然豊かで収入も確保できるよう田舎の価値を上げておくことが大事なんじゃないかと思ってる。
まちを良くしたい、とか、子供たちに未来を残したい、とか、そんなきれいな話じゃなくて、自分が望む死に方をするために、ワクワク楽しく、そして田舎でもちゃんと稼げるという姿を子どもに見せたい。そんな自己中心的な考え方なんだよね。

I N F O R M A T I O N

取材協力: 居酒屋こころ
〒391-0005 長野県茅野市仲町5-20
tel. 0266-72-8178

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“いま”を生きる人へ。“いま”の生きた情報を。

生きているといろんなことがある。
嬉しかったり。悲しかったり。
失恋の夜が明けたかと思えば、ひとめ惚れの朝が来たり。
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あんなに前向きだった気分も、
ふとした拍子にやんなっちゃったり。

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泣いて笑って、走って転んで汗まみれ。

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考えて、思いえがいて、考えて。

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