[VOL.38]
お話を伺った方
有限会社ネイチャーセンター代表取締役
内田 幸一さん
TEXT BY TANAKA YUKIKO
1983年、日本に初めて野外保育の幼稚園「森のようちえん」が誕生した。その創設者でもあり現在も野外保育の第一人者である内田幸一さんは、2021年に茅野市笹原に「野あそび保育ささはら」を設立。大規模な園舎を持たず、自然の中で子どもたちを育む野外保育で子どもたちが得るものとは一体何なのか。また公立保育園から転身した「ささはら」が、地域や保育の未来にもたらす影響についても伺った。
時代に抗う幼児教育
私が初めて「森のようちえん」を作った1980年代は、日本の高度成長の絶頂期でした。教育も英才教育、早期教育と低年齢化して、受験戦争もエスカレートしていきました。
1980年頃ヨーロッパの教育を見に行ったんですが、ヨーロッパではそれぞれの国で自分たちのアイデンティティーをすごく大切にしていたんですよね。その頃の日本人は日本を捨てていってる時代だったから、それが非常にバカなことだと痛烈に感じたわけです。
でもだからこそ、日本で子どもたちを育てるのに、ヨーロッパからとか都会から持ってくる必要はなくて、その地域の自然環境とか、そこに住む人たちが昔から生活の知恵として持っていたものを幼児教育の中でやりたいと思ったんです。
日本人の生活って自然との関係性が非常に深いんです。自然を破壊するのではなく、たくさんの恵みを得る一方で、恐ろしさも経験的にわかっている。
子どもたちは自然の中で育つことで、ゴミを捨てちゃいけない。植物を無闇に踏んづけてはいけない。小さな動物に残酷な扱いをしてはいけない。一方で摘み草をしたり、ヨモギをとってヨモギ団子作ったり、草木で染め物をしたりといろんなことをやって、自然は多くの恵みを与えてくれるもので、荒らしてはいけないとわかるんです。
そして必ず振り返りをするようにしています。「今日はどうだった?」「おもしろいもの見つけた?」って問いかけることによって、幼い子でも「どんぐりたくさん拾ったよ」「虫がいたよ」と表現するようになります。そういうものを地道に積み上げていくと、何をどう見てどう捉えていたのか、なぜそれを選択して話すのかを自分の意思で決められるようになる。それが主体性や自立性にやがてつながっていくと考えています。
野あそび保育「ささはら」誕生
飯綱高原で始めた時は日本で最初だったから、理想的な条件が揃う場所じゃなきゃいけなかったんですけど、今はそこまで考えなくてもいいんです。魅力的なところはたくさんあるし、子どもたちが興味関心を持って動けるフィールドさえ整っていればいい。長野県はそういう意味ではどこに行っても理想的なんですよ。
「ささはら」は元々公立保育園だったんです。子どもの数が激減して存続の危機になってしまった。けれど地元には子どもの声が飛び交う場所を失いたくないという思いがあったんですよ。子どもたちがここにいるということが地域を元気にする。地域の魅力になるし、子育てする人たちにとっても灯台のような存在になればいいと思っている。
本当に地域の人達の情熱に支えられていると思います。地域の人が本当に勉強されていて、みんな笑顔で見守ってくれるし、行事があれば積極的に参加してくれるのは、ここならではですね。
一般的に園の運営というのは少なくても100人単位くらいの規模で考えられていて、こんな小さな園が運営できるって誰も知らなかったんです。でもここができたことによって一つのモデルになった。廃園に追い込まれる園を、民営化と認定こども園という制度で再生できる可能性がある。同じような問題を抱えている地域はたくさんあるんですよ。少子化や市町村合併の影響で、園の統廃合だとか廃園だとか保育環境整備を真剣にやらなければいけない時代に入ってきてるんです。
今後は「森のようちえん」を全国に広げていきたい。日本各地に森のようちえんをやっている小さな団体があるから、そこと公立で廃園になるところをつなげていく仕事をしているんです。認可外で「森のようちえん」をやっていたり、園舎を持っていなかったりするところが民間として参入していけるようなアドバイスをしています。
大切なのは、見守り積み上げること
今の教育って、経験したことから知識になるということが疎かになっていると思う。知識は本からではなく、経験から獲得するべきだと思ってるんです。
要は子どもが何かをしようとするきっかけを奪わないこと。ときには何もしないでぼーっとしてる時もあるんだけど、それも大事。そこを見守っててほしいわけですよ。
だけどやがて動き出すために、いろんな状況の中に子どもを入れてあげる必要があるよね。公園でもいいし魚釣りだとか動物園だとか、いろんなことをしてあげながら子どもが動き出すチャンスを作ってあげるということが大事かな。
子どもがやろうとしている内容じゃなく、前向きに取り組もうとしてる姿、おもしろがってやってる姿を認める。危険にさらされない限りはできるだけさせてあげてほしい。
子どもがやってることに口出したくなったら「おもしろいことやってるね」って声をかけてみて。つい自分が手を出したり口を出したりしたくなっちゃたら、自分に聞かせるように声をかけてみて。そうすれば能動的に動く子になるし自分から考えて行動する子になるんですよ。