地方の店だからこそ
できることは必ずある。
服と人から見つめる街。

[VOL.04]
t.m.p coop 浅見啓一

TEXT BY TANAKA YUKIKO


PROLOGUE

重たい扉を開けると軽やかなレディースの洋服や小物が目に入る。奥に進むとやや色味を落とした空間に並ぶメンズの洋服たち。一目でこだわって揃えられたとわかる品揃えのこのお店はt.m.p coop。塩尻市出身の浅見啓一さんが経営する洋服のセレクトショップである。上諏訪からこの地に移転して7年半が経ちこの秋には18周年を迎えるという。地方にも大手量販店が進出しネット通販が伸びる中、あえて地方都市に店舗を持つことの意味と想いを伺った。


あえて選んだマイノリティな環境、その魅力。

塩尻市の出身で松本のアパレル店で働いていたあと、27歳の時に独立して最初は上諏訪にお店を出しました。上諏訪で10年間、そしてここに移転してからこの秋で8年になります。 塩尻に住んでいる人間が商売をしようと思ったら松本にお店を出すのが妥当なんでしょうけれど、松本には洋服のお店もたくさんあるから隣の芝が青く見えてしまったり、売り上げや品揃えを比べてしまったりするだろうなとも思って。そんなことに振り回されるくらいなら、誰も知らないところで、一から始めてみたいと思ったんです。
当時諏訪ってマイノリティな感じがあってちょっと面白かったんですよ。それぞれのお店がちゃんとお客さんを呼んでやっていらっしゃったから、自分もそうなれたらいいなって思ったんです。メンズ・レディースを両方置くようなスタンスのお店が諏訪にはなかったのも決め手の一つ。僕も誰も来ないんだったら呼んじゃおうくらいに思って始めましたね。今ならこう言うと、長くやってきたから説得力があるっていうのはあるかもしれないけど。正直調子に乗ってたんですよね。笑

リアル店舗で得られるのは物だけじゃない。

今はうちにもECサイトがありますが、販売のメインは店舗です。もちろんネットで服を買うことも、量販店の洋服と使い分けることも大事な選択肢の一つだと思いますが、ぜひお店に来て欲しいと思っています。
僕自身、人のお店に行くのが好きなんです。洋服のお店はもちろん、ご飯屋さんでもどんなお店でも。お店の人と出会えたから得られたことやそこに行かなければ聞けなかったことがある。得られるのって物だけじゃないですから。自分のお店でもそういう部分を大事にしたいと思っています。
いま世の中の買い物はネットの割合がどんどん増えていって、特にアパレルだとネット8割、店舗2割とかになっているお店もいっぱいあるって聞いています。でもうちはまだ全然越えていない。ネットの売り上げももちろんないよりはあったほうがいいですけど、やっぱり服好きがやってるんだなっていうのを感じてもらうにはお店に来てもらいたい。
お客さんは年齢層は30〜40代が多いです。地元の人はもちろんですが、都会から観光でこの辺りにお越しの方や二拠点生活の方、そのほかにも山梨や遠くは名古屋や関東方面からもお店に足を運んでくださる方がいます。そのほとんどがリピーターさんですね。
メジャーなブランドを扱っているわけではありませんが、東京をはじめ都会だったら探せばあるはずのものなのに、わざわざここに来てくれるっていうのはうれしいですね。
なかにはECサイトで商品を見て、気になったので実物を見にきましたっていう人もいます。逆に僕も商品を選んでいると、あの人が好きな感じかも! とお客さんの顔が見えてきたりします。その人が本当に見に来てくれること、やっぱり! ってうれしくなりますよね。
こういうところは長い間コミュニケーションとってきたからこそかなと思いますし、それだけ気持ちを込めてセレクトしています。

“最先端”を超えて。
地方だからこそ出せた個性。

地方だからこそ貫きとおせた信念があると思っていて、その感覚は年齢とともに強くなる感じがしています。
いまだに大手のセレクトショップって一つのワードになって、セレクトショップだからオシャレっていう感じがある。品揃えなど地方のお店もそれにならう風潮があるんだけど、そうじゃなくて地方だからこそできることって必ずある。お店の個性だったり色だったりに引っかかるお客さんがいると思っているんです。最先端かどうかだけじゃなくて個性を出すことができる。そういう意味でも松本ではなく諏訪や茅野を選んで良かった。正解だったと思います。
今はどこでも駅前は寂れてるなんて言われてますけど、今からまた昔のような賑わいを求めるのとはまた違って、デメリットをむしろプラスに変えてしまえるんじゃないかと思うんです。地元の人は気づかないで通り過ぎてしまいがちだけど、足元にはいいものがたくさんある。人って人に呼ばれてくるものだと思うので、そこにどんなお店があって、そのお店がどんな人を呼べるかが大事だと思っています。そうして街の魅力が再発見されていったらいいと思っています。

I N F O R M A T I O N

t.m.p coop
〒391-0002 長野県茅野市塚原1丁目7-8
TEL. 0266-82-1577

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生きているといろんなことがある。
嬉しかったり。悲しかったり。
失恋の夜が明けたかと思えば、ひとめ惚れの朝が来たり。
成功したあとには、 失敗ばかりの日々が続いたり。
あんなに前向きだった気分も、
ふとした拍子にやんなっちゃったり。

いつだってぼくらは、
泣いて笑って、走って転んで汗まみれ。

でも、そのたんび、
いまより良くするもっと冴えたやり方。
いまから始まるバラ色の近未来。
いましか望めない遠い風景。
考えて、思いえがいて、考えて。

考えることは生きること。ぼくらはいまを考える。
そう、ぼくらは“いまを生きる人”なんだ。

そんな、イマジンたちに贈ります。

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