[VOL.27]
お話しを伺ったヒト
やまファーム | 鈴木 紘平さん
TEXT BY TANAKA YUKIKO
直感で決めた移住、そして菊の栽培
八ヶ岳の農業がもつ可能性を未来につなぎたい
諏訪は菊の産地である。特に夏場に良質な花が出荷できることで有名だ。二〇一七年に茅野市に移住し二〇一九年から菊の栽培をしているやまファームの鈴木紘平さんは、一般的な和菊に加え、華やかな洋菊の栽培も手がけている。菊の栽培を始めて6年。菊の栽培を通して見えてきた農業の課題、そして八ヶ岳の農業の勝機とは。
稼げる農業の正解は菊だった
もっと自然に近いところで暮らしたいと二〇一七年に移住、二〇一九年に独立しました。以前はIT関係の仕事をしていましたが、農業であれば日頃から自然の近くにいられるのでは。自営であれば自分の時間を自分で支配できるのではと考えたんです。
県内の他の地域も見にいきましたが、就農については茅野市の農林課がいちばん親切だった。知らない世界に飛び込むのには味方は多い方がいいですし、東京にも名古屋にも近いのがいいと思ってここに決めました。
最初は農業をするなら当然野菜と思っていました。ただ僕自身、きちんと稼いで納税もしたいっていう割と邪な考えだった。(笑)野菜でしっかり稼ぐには広い土地が必要なんですよね。でも菊だったら小面積で栽培できて単価が高いし、底堅い需要がある。加えて花だけど露地でも栽培できるというのもいいなと思いました。農地とそれを回せるだけの力があれば拡大していけるんじゃないかと思って、直感で決めちゃいました。
実際当時の期待は遥かに上回っていると思います。金銭的な面にはまだ課題もありますが、とりあえずはすごく贅沢はできなくてもちゃんと生活していける。工夫すればもっと良くなるのが見えています。後から気づいたことですけど、自分が思い描く道は菊しかなかったと思っているくらいです。
菊をさまざまな形で
多くの人に届けたい
花を作る以外では、ロスする花を少しでも減らす活動をしています。これまでに、ロスする花を華道家さんにライブで活けてもらうイベントや、生花店に無償提供する代わりに作品を作ってインスタに上げてもらうという企画をやりました。
あとは六次産業化にも興味があります。今は花びらを使った染め物がほぼ商品化が可能なところまできました。もう一つやりたいと思っているのはアロマ。菊にはいろんな品種があるんですけど、品種によってだいぶ香りが違うんです。中には本当にいい香りのものもあって、商品化できれば国内産の花で国内製造というブランドになりうると思うんです。発信してみると、ここが菊の産地だと知らない地元の人も多いんだと気付かされました。知ってもらうのも大事なことですし、やってみることで課題も出てきて、解決できることはしていく。そういうのは会社勤め、他の業界も同じですよね。
次世代への橋渡し
かつてはたくさんの菊農家があったそうですが、私が入ったころで七〇軒。今はそこから二〇軒も減っています。残っている農家さんも平均年齢は七〇歳台ですから、新しい人を入れなきゃいけないんですけど、この世界はまだまだリクルーティングが弱いですね。最近同じような問題意識を持っている若い人たちと「信州ちの就農LABO」を立ち上げました。組織として色々な作物についての相談を受けられる体制を作っていこうと思っています。
標高一〇〇〇m付近のこの地域って農業に適しているんですよ。最近気温が高い時期が長くなったなとは感じますが、昼夜の寒暖差はあるので、菊なら発色が良くなる。野菜でいえば甘味が強くなる。湿気も含めて考えると本当に大チャンスが眠っている。全国的に見ても勝ちにいける産地なんです。
でも農家は大変で子どもの運動会なんかいけなくて当たり前というイメージだから継いでくれる人がいない。でも嘆いているだけではダメですから、ぼくは自分が抜けても回せる体制にして、どこへでも行けるようにしています。そして下の世代との橋渡しになりたいんです。いろんな人が参入したい産業になって、優秀な人が来てくれればその人がさらに変えてくれる。そういうところに野心を持っています。
I N F O R M A T I O N
やまファーム
〒391-0213
長野県茅野市豊平泉1104