このまちとともにめくるページ。本屋があるということ。

[VOL.36]
Interviewee
今井書店| 高村志保さん

TEXT BY TANAKA YUKIKO


美しい物語を届けたい

長年茅野駅前に店を構える「今井書店」は、この春新たなステージを迎える。4月茅野駅前に誕生する、人、まち、想い、を結ぶ新たな複合施設に移転を決定したのだ。店主の高村志保さんはこれまでも市内外の子どもたちに読み聞かせなどの活動を通して美しい物語を届けてきた。書店を取り巻く状況は厳しいけれど「それでもまだ本屋を諦めきれない」と語る高村さん。書店として店舗を構える意義とは。本を通して届けたい思いを伺った。


書店員としてのスタート

ここから歩いて5分くらいのところで、父と母が3坪の小さな本屋を開いたのが始まりです。ここに移ったのが45年くらい前でしょうか。私は大学で京都に行って、そのまま就職して結婚もしました。結婚して子どもが1歳になった頃、父が夫に「戻ってきて本屋をやらないか?」と提案したんです。田舎で子育てしたいという希望もあって、なんとなくこちらに戻ってきました。
富士見にあった店の1つを夫が任されて、私も人手が足りないときに手伝っていました。ある時、書店営業の新人研修に出してもらったんです。その時そこにいる営業マンたちの姿を見て、違和感を覚えたんです。綺麗事かもしれないけれど、やっぱり子どもにいい本を届けたい。その時の研修の中にももちろん熱心な人もいましたけれど、心が足りないというか方向性が違う感じがしたんです。でもそれがきっかけになったと思います。それが20年くらい前ですね。

本は子どもたちが帰ってくる場所

それからの私は、よい本を届けるための勉強をしました。というよりは幼い頃から自分が両親から享受してきたよろこびを見つめ直したといったほうがいいかもしれません。
幸い私が育った時代というのは児童書の絶頂期でした。日本にいい物語がたくさん生まれて、それを父がたくさん読んでくれた。思い出の一冊といえば例えばこの『プンク マインチャ』(大塚勇三再話 秋野亥左牟画 福音館書店)。これは本当におどろおどろしい話なんですけど、父の膝でよく聞いたの。読んでもらっている間は物語の中に入っていくのだけれど、「おしまい」と本を閉じた瞬間に父の膝に戻ってくる。現実に戻ってくるその時の感覚がすごく好きでした。
当時はアジアの物語を日本に持ってこようとする動きが活発で、その流れでできた本なんだと思います。作画の秋野先生がインドにお住まいだった頃に描かれていたのではと思うんです。当時のその土地の空気感が色濃く反映されています。

届けたいのは、余白のある美しい物語

選書の基準というわけでもないんですが、ロングセラーにはこだわりがあるんですよね。特に1960年代の本は、売り続けたいと思っています。大人騙し、子供騙しの本は置かない。100年残る絵本を届けたいと思って選んでいます。もちろん今も新しい本は色々出ています。かわいい本、おもしろい本、たくさんあるんです。そんな中でも余白のある美しい物語を届けたいと思っています。そういう意味で去年のナンバーワンは『ある星の汽車』(森洋子作 福音館書店)。これに勝るものなし。私も1回読んだだけではわからなかった。けど2回目に読んだとき、この本が伝えたいメッセージがわかって、おおお!ってなりました。子どもには本当のメッセージはわからないかもしれない。でもそれでいいんです。わたしは本は「帰ってくる場所」だと思っているので、大人になって懐かしい気持ちでその本を手に取った時に、ああこういうことだったんだ!って思ってくれたらいい。そのためには幼いときに本と出会っておかないといけないんです。

まちが本屋を育てる

ベルビアへの移転について声をかけられた時はずいぶん考えました。最初は「なぜうちに?」と不思議に思っていました。でも享さん(株式会社ベルビア代表取締役)に言われたんです。「本屋を続けたいならベルビアにおいでよ」って。その時に「ああ、私まだ本屋を続けたいんだ」って気づいた。今どこでも書店の経営は厳しい。でも諦めきれないんです、本の世界を。だから今回のお話はチャンスをいただいたと思っています。
本屋さんは全国にありますけど、ちゃんとした児童書を扱う本屋さんは少ないと思います。まちには納得のいく本を置いている本屋があればいいと思う。物語はもちろん、挿絵や、表紙の手触り。そういうこともひとつひとつ感じ取って欲しいと思っています。
本を好きな人はいっぱいいるんだろうと思う。同時に、わたしたちって本にはすごく愛されてると思うんです。本は無条件に私たちを愛してくれる。本を開くか開かないかでその愛情を受け取れるかどうかが決まるから、それを一人でも多くの方に届けたいと思います。
移転したら館内に小さなお子さん向けの施設もありますし、ぜひそうしたお出かけのついでに立ち寄って欲しいですね。本屋ってお客様によって棚が出来上がっていくんですよ。私が選ぶだけだとどうしたって偏る。でもお客様が注文してくださるから、読んだことのない世界が広がり、棚が出来上がっていく。それも楽しみです。


I N F O R M A T I O N

今井書店
〒391-0001 長野県茅野市ちの3502-1
ベルビア1F 8Peaks living内
TEL. 0266-72-1240

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“いま”を生きる人へ。“いま”の生きた情報を。

生きているといろんなことがある。
嬉しかったり。悲しかったり。
失恋の夜が明けたかと思えば、ひとめ惚れの朝が来たり。
成功したあとには、 失敗ばかりの日々が続いたり。
あんなに前向きだった気分も、
ふとした拍子にやんなっちゃったり。

いつだってぼくらは、
泣いて笑って、走って転んで汗まみれ。

でも、そのたんび、
いまより良くするもっと冴えたやり方。
いまから始まるバラ色の近未来。
いましか望めない遠い風景。
考えて、思いえがいて、考えて。

考えることは生きること。ぼくらはいまを考える。
そう、ぼくらは“いまを生きる人”なんだ。

そんな、イマジンたちに贈ります。

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