

[VOL.35]
お話しを伺ったヒト
小池 すみ子 さん/大島 晃子 さん/小林 節子 さん

TEXT BY TANAKA YUKIKO
茅野市金沢地区で、郷土料理を伝える活動をしているお母さんたちにお話を聞くため、かつての宿場町金沢へ向かった。
前日からの雪がやっと止み、少しだけ重たい眠たげな空気が漂う中、真っ白な坂道を登ると、灯りのついた古民家が見えてきた。
ここはかつて甲州街道の〈金沢宿〉として栄えた場所で、ところどころに残る大きなお屋敷が当時の風情を感じさせてくれる。
車を降り、新雪を踏み締めて玄関に向かう。
中からは微かな物音と話し声。
一歩足を踏み入れると、包み込むような温かさに、体の緊張が抜けていくのを感じた。

ここは茅野市金沢地区にある一棟貸しの宿、〈ヤマウラステイ金渓〉。出迎えてくれたのは、この地区にお住まいの小池さん、小林さん、大島さん。3人はここで、旅行者向けに、郷土料理を教えながら、一緒に作り、食べる体験のガイドをしている。
この日は、諏訪地方で馴染み深い“のたもち”“凍み豆腐の卵とじ”、そして金沢地区にゆかりのある“油揚げ巻き”の3品を作りながらお話を聞かせていただいた。

まずは“のたもち”の餡づくりから。
「のたもちは夏のおもてなしの料理です。この辺りでは半殺し(※)のお餅に、枝豆をすりつぶした餡をのせたものを“のたもち”っていうの。東北地方では“ずんだ”っていう、あれと同じ。昔は田植えが終わると畔に大豆を植えて、それがちょうどお盆の頃に食べごろになるから、家族で協力して作って食べていた。子どもたちが枝豆を出したり、すり鉢ですったりして、大人も子どももみんなでワイワイと」と小林さん。
「今でも農家さんやお年寄りのいるお宅なら作るんじゃないかしら。ここではお砂糖で甘くして、隠し味にお塩を少々。味も食べ方も、家庭によっていろいろあります」

続いて“油揚げ巻き”と、“凍み豆腐の卵とじ”づくりへ。
小池さんは、金沢地区にお嫁に来た頃のことを話してくれた。「油揚げ巻きは精進料理のひとつで、お葬式や仏事の時に作ることが多かったみたい。私がお嫁に来て少し経った頃に、人から頼まれて金沢地区から原村、富士見町まで調査してレシピを再現したもののひとつなの。昔は小麦粉を水で練っただけのものを油揚げで巻いていたみたい。そこから米粉に変えたり、野菜を入れたり、卵やお豆腐を加えたりして工夫してきたの」
油揚げを広げ、具材をくるりと巻いたら爪楊枝で留め、甘辛く煮ていく。輪切りにして皿に並べ、香り立つ煮汁をかければ出来上がり。目にも美しい、ごちそうだ。
凍み豆腐っていうのは、この寒くて乾燥した気候を生かしたもの。本来は薄く切ったものを凍らせたまま保管しているの。今日はシイタケとネギを入れるけれど、野菜はお好みで。出汁で煮て最後に卵でとじれば完成。普段から家庭で作ってもらえる料理です」と小林さん。
すると小池さんが、昔の様子を話してくれた。
「昔はね、冠婚葬祭は隣同士が集まってやっていたの。お葬式があると、油揚げ巻きや巻き寿司は男の人たちが巻いてくれた」


「この味どう?ちょっと甘すぎる?」
「もう少し塩足そうか?」
作り慣れた料理でも、味見は欠かさない。3人で鍋を覗き込みながら会話を交わす様子は、どこか絵本の一場面のようだ。
かつては、もっと多くの人が、こうした光景を作っていたのだろう。料理が煮える音や匂い、湯気に包まれた室内。五感のすべてを通して記憶に刻み込まれてきた、これこそが“食文化”なのかもしれない。
最近は、海外からの旅行客を中心に、郷土食の料理体験を申し込む人が増えているという。自宅でも旅行者を受け入れている大島さんは、「ハワイからのお客様が、翌年はお子様を連れて来てくれたんです。料理だけでなく、私たち夫婦のおもてなしの心を子供たちに伝えたいとのことで、再度わが家を訪れてくれました。とても感動しました」と話す。
伝統が急速に失われつつある現状に、小池さんは、「自分で手をかけて作ったものはおいしい。年に一回でも、ひとつでも作っていれば、子どもたちはちゃんと見ていて、受け継いでくれるのかもしれないね」と続けた。

懐かしく美味しい料理をいただいておなかが満たされる頃、厚かった雲は山の向こうへ流れ、夕暮れが近づいていた。大皿に残った料理を分けてもらいながら、ふと「わたしも作ってみようかな」と思う。“郷土料理” “伝統料理”という言葉に感じていた敷居は、いつの間にか下がっていた。今度は家で作って、家族と食べてみよう。
こうして時代は、静かにつながっていくのかもしれない。
(※)炊いた米を米粒が残る程度にすりつぶした状態のもの
今回作っていただいた郷土のお料理
《 レシピ 》

● のたもちーーーーー
お盆や十五夜によく作られた、諏訪地方を代表する郷土食です。
田の畦(あぜ)や畑に大豆を蒔き、お盆に親戚が集まると、みんなでのたもちを作って食べました。東北地方では「ずんだ」といいますが、諏訪地方では「のた」または「ぬた」と呼びます。丸めたもちにまぶしたり、水でゆるめてご飯にかけたりと、家庭ごとの味があります。甘さや塩加減、すりつぶし加減にもそれぞれの伝統が受け継がれています。
材料(6人分)
・もち米とうるち米 … 3カップ(7:3~4:1の割合)
・水 … 適量
・枝豆(さや付き)… 600g
・砂糖 … 60g
・塩 … 小さじ1/2強
・水(のた用)… 適量
作り方
①もち米とうるち米を混ぜ、炊飯器で通常より少し少なめの水加減で炊き、半つき程度につぶす。
② 枝豆は色よくゆで(または蒸し)、さやから出す。
③ すり鉢ですりつぶし、砂糖・塩を加え、水でゆるめて「のた」を作る。(硬さ・味付けは好みで)
④ ①を好みの大きさに丸め、のたをまぶす。
● 凍み豆腐の卵とじーーーーー
昔から食べられてきた、凍り豆腐料理の定番です。
これ一品で野菜も卵もとれる、栄養たっぷりの郷土料理です。
材料(4人分)
・凍み豆腐 … 2枚
・長ネギ … 1本
・生しいたけ … 2枚
・だし汁 … 200ml
・醤油 … 小さじ2
・砂糖 … 大さじ1
・みりん … 小さじ1
・酒 … 小さじ1
・卵 … 2個
作り方
①凍み豆腐はぬるま湯で戻して短冊に切る。
② 長ネギと生しいたけは薄切りにする。
③ 卵は溶いておく。
④ 鍋にだし汁と調味料を入れてひと煮立ちしたら凍み豆腐と生しいたけを入れて蓋をし3分ほど中火で煮る。
⑤ ④に長ネギを入れ、1分ほど煮てしんなりしたら
⑥ ⑤に溶き卵を回し入れ蓋をして弱火で2〜3分煮て好みの固さで火を止める。
● 油揚げ巻きーーーーー
主に金沢地区や富士見町、原村で、お葬式や法事の際に必ず作られていた料理です。
仏事料理のため、本来は人参を入れずに作ります。昔は砂糖や塩を多く使い、日持ちするよう濃い味付けにしていました。
今回は現代風に塩分控えめに仕上げています。
材料(4人分)
・油揚げ(中)… 2枚
〈A〉
・米粉 … 55g
・片栗粉 … 小さじ1/2
・卵 … M1個
・絹ごし豆腐 … 75g
・にんじん … 40g
・枝豆(さやなし)… 40g
・干ししいたけ… 1枚
・しょうゆ … 小さじ2
・砂糖 … 小さじ2
・塩 … 少々
〈B〉
・しょうゆ … 大さじ2
・ザラメ糖 … 大さじ2
・だし汁 … 500ml
・干ししいたけの戻し汁 … 50ml
作り方
① 干ししいたけは水でもどしておく。
② 油揚げは油抜きし、三方を切り開く。
③ にんじん、戻したしいたけはみじん切り、枝豆は茹でておく。
④ 〈A〉の材料を混ぜ合わせ、②の2枚の油揚げの上に均等に広げる。
⑤ ④を寿司のように巻き、端を楊枝で止める。
⑥ 鍋にだし汁と〈B〉の調味料を入れて煮立たせたら⑤を入れクッキングペーパーで落とし蓋をして中〜弱火で汁がほとんどなくなるまで煮込む。途中で2回ほど裏返す。
⑦ 冷めたら1センチくらいの輪切りにして盛り付け、煮汁をかける。



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