

[VOL.17]
TEXT BY TANAKA YUKIKO
歩いてますか? 車は便利なもの。なるべく早く、なるべく無駄なく、なるべく滞りなく。それはいいことなんだけど、ちょっと疲れてしまうことも。たぶん、わたしたちの本当のリズムとすこし違うから。そんな時は歩いてみよう。何かがほぐれて、何かがひらけてくる。ほら、いつもの街が、やさしい顔で迎えてくれる。
どこまでもゆこう、この線路と一緒に。
きっかけはただの気まぐれ。なんとなく道をそれてみる。あ、線路下に小さなトンネルが。恐る恐るくぐってみると、草に埋もれそうな細い道。線路に沿ってずっとずっと。こんなの見ると、ついどこまでも行ってみたくなる。だって、何か発見がありそうな予感。早速、野生(?)のブドウに出会ってしまう。

たかが階段、されど階段。
ここは、この街を大きなスケールで感じられる、そんな階段。というのも、階段の架かるこの崖、その名も茅野断層。それは遥か遠い昔に生まれた地形。つまりこの階段は、街中にいながらにして大地の壮大な営みを感じられる場所。そう思うと、見慣れた風景がいつもと違って見えてくるかも。

秘密の小径に、蟹とたわむる。
つい見過ごしてしまいがちな小径が一本。奥が薄暗くてすこし腰が引けるかもしれないけれど、勇気を出して分け入ってみればそこは、澄んだ水に水草のゆれる気持ちのいい道。そこは蟹河原という、実はとても由緒ある場所。それを掘りさげて調べてみるのもまた、散歩の楽しみのひとつだったり。

上昇すること、落ち着くこと。
息を切らして坂を登ってゆく。ふくらはぎに力が入る。「がんばらなくちゃがんばらなくちゃ」知らず心の中で繰り返していることだろう。気づけば頂上。ふっと視界がひらける。ああ、この街はこんなに小さく、そして可愛らしい。別の街とつなぐ列車がゆく。いつのまにかふくらはぎの力が抜け、軽くなっている。

まちなか森林浴をすすめる理由。
図書館を抜けて小さな橋を渡ればもう、そこは森。なんだかここが街中だと忘れてしまいそう。色々なややこしいことはいったん置いて、大きく息をして歩いてみよう。ゆっくりやってみよう。そうしてまた日常へ戻れば、ほんのすこし誰かにやさしくなれる気がする、かもしれない。

