靴と足から開かれる豊かなライフ。“街の靴屋”でなければできないこと。

IMA-ZINE INTERVIEW VOL.60

元気なまちで、今(いま)を生きる、元気な人(じん)にインタビューするコーナー。

株式会社サンドリームファクトリー 代表取締役
霜田 清
Kiyoshi Shimoda

INTRVIEW WITH KITAHARA JACKSON YU   TEXT BY TANAKA YUKIKO


長野県を中心に「靴のシューマート」を展開する株式会社サンドリームファクトリー。その本社に最も近いシューマート長野稲里店が、2025年3月19日「シューマート 長野稲里本店」としてリニューアルオープンした。
今回、株式会社イマージでは約1年かけて、ブランディングからデザイン・施工を行なった。全国でも類を見ない売り場総面積500坪以上の大型店舗をこのタイミングでリニューアルした狙いは何か。長い歴史を持つ企業が踏み出す新たな一歩について、霜田 清代表取締役にお聞きした。


困りごとを解決する
まずは女性のために

北原 友[以下、北原]:本当に大きいこの稲里本店ですけれど、ここをリブランディングすることになった経緯を教えてください。

霜田 清(以下:霜田):このお店はうちの全店舗の基幹店と位置付けているんですね。この5、6年で我々は「物売り」から「困りごと解決企業」になろうということで、カウンセリングコーナーを作ってきました。ただ後付けだとだいたい店の奥になってしまうので、やっぱり中心にと。靴屋に来たらカウンセリングからスタートするっていうイメージにしたかったんです。
もう一つには、シューマートって50年以上の長い歴史があるんですけども、もともと問屋と靴屋が一緒になってできた靴屋なんです。いっぱいある靴を安く売るお店。それを考えてきたのはバリバリ働く男性陣で、ある意味力技で大きくしてきた会社でした。でも実際のうちのお客さんていうのは圧倒的に女性が多いんです。買い物の主体って女性ですよね。なので女性の視点でロゴも店のイメージも変えたいという思いがありました。

北原:確かに、今回チームブランディングでスタッフさんと一緒にやらせてもらったんですけども、女性からの意見が重要だったなと思いました。今回参加するスタッフさんはどう集められたんですか?

霜田:基本的には公募にしました。うちの会社を引っ張っていくお店になるんで、やらされ感じゃなくて、自分でうちの会社を変えたい、店舗を変えたいという思いのある人じゃないということで公募にしました。

北原:ブランディングではお馴染みの<りんごの木>の島田社長にご協力いただいて、ファシリテーターをしてもらいましたが、社長ご自身それを見られてどうでしたか?

霜田:よかったですね。自分たちに足りない視点を教えてもらったし、自分たちが普段思っていることも、自分たちだけでやっていたら出せなかったかもしれないけれど、掘り下げてもらったことで言えるようになったんだなと思いました。

靴業界でのソムリエ
シューフィッター

北原:もともとashiru※ってどういう経緯でできたんですか?

霜田:もう20数年前になりますけども、シューフィッターという資格をとり始めたんです。さっき言ったように、当初はたくさんあって安く売るっていうお店の状態だったんだけども、それに対してシューフィッターっていうのは靴の専門家。一人ひとりの困り事を聞いてアドバイスをするっていうのは、その業態に合わないのではないかと言われていました。例えられたのは、居酒屋にソムリエがいるようなものですよ、と。でも今はメディアが発達してお客様も専門知識を持っているのに、それに我々が答えられないんではっていうことで強引に増やしていったんです。
でもお店のあり方は結局商品を運んで陳列して終わり。なのでカウンセリングコーナーという場を作ることで、シューフィッターたちが活躍できる場を作っていったんです。

北原:僕の子どもも靴を見てもらったら合ってなかったんですよね。そういう子、
いっぱいいるんじゃないかな。

霜田:そうですね。世界を見ても靴の脱ぎ履きをこれだけ頻繁にするのは日本だけなんです。だからみんなどういう思考になるかっていうと、脱ぎ履きがしやすい=大きい靴がいいと考える。親御さんからすると子どもは成長するからなるべく大きめがいいと思う。でも結果それでお子さんたちの足もいろんな病気や変形を持ってきている。それは我々の使命として伝えていかなきゃと思っているんです。

※ashiruとは・・・靴のシューマート併設の足のカウンセリングサロン。足と靴の専門家が、足の悩みに
寄り添い正しい知識、確かな技術、快適な商品を提供し、足もとから健康をサポート。

コンセプトとは想い
想いとは理想の形

北原:お店が完成してみて、ご感想はいかがですか?

霜田:いちばんはやはりお店の中心にカウンセリングコーナーがあるのがいいですね。入口が2つあるんですけども、どちらから入ってきてもセンターにある。お客様がそこで足を見てくれるんだなと思ってもらえるようになりました。
もう1つは、靴だけで500坪っていう規模を持つお店はそうないんですよ。スタッフが10数人いるんですけども、今まではどこにスタッフがいるかわからない。お子さんとかおじいちゃんおばあちゃんが迷子になるってことがあったんです。それを棚の高さを変えてもらったことで見通しが良くなって、お客様にとっても買い物しやすい場所になりました。(什器の高さを抑え、商品を美しく見せるとともに、お客様とスタッフ間の関係を創りやすい空間に)
あと売り場でいえば一番インパクトを与えているのはこのスポーツシューズのコーナー。20数年前に店舗を作った頃のメインは婦人靴だったんです。今現在、スポーツシューズの構成って半分以上になっているのに、そういう売り場になっていなかった。それを思い切ってできたのが良かったです。

北原:お店の中にトラックを敷いて試し履きができるんですよね。選んで履いて、歩いてみるっていうことができる。ブランディングの中で「あるく はしる いきてゆく FUN SHOES, THINK LIFE.」というのが出来上がったんですけれど、このフレーズを見た時にどう思われましたか?

霜田:私が話してきたこと、みんなでこれまで話してきたことが短いフレーズの中に凝縮されたんだなと思いました。

北原:それからうちのクリエイティブチームが書いた詩を気に入っていただいたとのことで、名刺の裏とかにも入れて常に持ち歩いていただいているということなんですよね。とてもうれしく思っています。

霜田:これはもちろんお客様に対する詩ではあるんですけど、働いている自分たちがストンとしっくりくる。そうだよね。そのために私たち働いているんだよねって思えたんじゃないかなと思いました。

物売りのその先へ
新たなモデルを展開

北原:シューマートさんは各地に展開されていますが、地域ごとに色ってあるんですか?

霜田:もちろんありますね。長野県の中でも北信は雪寒地ですけど、東信、中信、南信といくとやはり風土が変わってきますから差は出てきます。群馬県、関東、山梨、新潟にもあるのでそれぞれ地域性はあります。もっと言えば足の大きさなんかも違うんです。

北原:シューマートさんて、普通の靴屋さんにはないお客さんとの接点を持たれていると思うんです。その辺りは意識されてるんですか?

霜田:靴屋として貢献するのがいちばんの使命なんですけども、地域の色々、たとえば生活困窮者の方たちが靴がないような場合は社会福祉協議会からはお話をいただきます。
災害の時にもいつもお話が来て、特に水害だと靴が流されちゃったり長靴が必要になったりする。すると避難所にすぐ飛んでって提供させていただく。そういうことをやっていることで、普通に声がかかるようになっている。そういう地域とのつながりというのはこれからもより増やしていければと思っています。

北原:カウンセリングを通しても、普通のお店ではないコミュニケーションが生まれますよね。

霜田:我々が靴をちゃんと見てきたことで、地域の小学校とかで自治会とか、シニア大学とかそういうところで靴について話をしてくれませんか?って言われることがあるんです。そういう意味では私たちも、お客様たちの足についての関心や話を聞くことでまた発信できる。そういう力はついてきたなと思います。

北原:新しいお店も完成して、この先の展開のイメージをお聞かせください。

霜田:今回お世話になって、新しいシューマートの形ができた。お話ししたように我々は単なる物売りではなくて、お客様の足や靴の困りごとや体の困りごとを、「足を通して解決する」「健康になっていただく」お手伝いをする。それに沿った売り場、商品、接客をしていく。旗艦店であるここでちゃんとモデルを作り上げて、他の店舗、地域に展開していくということですね。
今まではトップダウンでやってきてしまったところが多かったと思うんです。でも今回、私はほとんど口を出さなかった。プロジェクトメンバーで作り上げたものでした。これをやっぱり大きなこれからの力としてみんなで一つの事例としてどんどん増やしていけたらと思います。


PROFILE
1967年長野市生まれ。長野高校、早稲田大学で応援団に所属。卒業後26歳で衆議員選挙に出馬した折に(落選)、シューマートの創業者に出会い、同社に入社。2007年社長に就任。2017年に会長になったが、2019年グループ全体の構造改革(社員全員で設立したサンドリームファクトリーという会社がシューマートの全株式を取得)を実行した時に、社長に復帰した。

PROFILE
1984年長野県茅野市生まれ。日本大学建築学科を卒業後、インディーズバンドを経て、2010年イマージに入社。建築事業に加え、自社経営の飲食店やフィットネスジム、数多くのクライアント案件においてブランドマネージャーを務める。2020年より現職である代表取締役社長に就任。経営理念「元気なまち」を掲げ、茅野市を中心に地元の発展の最前線に立つ。


I N F O R M A T I O N

SHOEMART 長野稲里本店
〒381-2217 長野県長野市稲里町中央 3-39-1
tel.026-286-1657
Instagram:シューマート長野稲里本店【公式】