[IMA-ZINE INTERVIEW VOL.67]

元気なまちで、今(いま)を生きる、元気な人(じん)にインタビューするコーナー。
八ヶ岳農業大学校
校長兼専務理事 丸山 侑佑
Yusuke Maruyama
INTRVIEW WITH KITAHARA JACKSON YU TEXT BY TANAKA YUKIKO
標高1,300mの高地に、267haという広大な敷地を有する八ヶ岳農業大学校。経営悪化により存続が危ぶまれていたが、2024年から新たな再建の道を歩み始めている。その一大プロジェクトを担う一人が、校長兼専務理事の丸山侑佑さんだ。コーポレートガバナンスを専門とし、企業の内部統制や人事、組織設計などの分野で、現在も第一線で活躍する丸山さん。そんな多忙な日々を送る彼を、これまで縁のなかった農業と教育の世界へと向かわせたものは何だったのか。八農の再建プロジェクトは、いまどこへ向かおうとしているのか。お話を伺った。


険しい道のりへ
その一歩を踏み出す熱量
北原ジャクソン友[以下、北原]:今月は八ヶ岳農業大学校の丸山校長にお話を伺います。この学校については数年前から地元でも話題になっていて、「誰がどうやって立て直すんだろう」と多くの人が注目していました。丸山校長が就任されたきっかけは何だったのでしょうか?
丸山 侑佑さん[以下、丸山]:実は学校とは直接関係なく、3年半前に家族と一緒に原村へ移住してきました。2024年4月に原村の牛山村長とお会いする機会があって、「経営者として何かお手伝いできることがあればやりますよ」と話したところ「ぜひお願いしたい」と言われたのがきっかけです。本業がありますから、そんなに時間は取れない。現場監督的に「週に何時間くらいなら」と引き受けたんです。でも、最初に出社して経営会議に参加したら、ものすごい議論になっていて収拾がつかない状態だった。そのとき「そのボール、僕が持ちます」と言って整理を始めたのがスタートです。週に数時間のつもりが、その日だけで6時間以上働いていました(笑)。
北原:なるほど。それで「校長をやります」という流れになったんですか?
丸山:いやいや、そのときの議題は牛乳加工所を再稼働させるかどうか、という話でした。その後も進行中のプロジェクトに関わりながら、同時に次の校長の公募を始めたんです。これが驚くほど順調で、100人以上の応募がありました。大手企業の役員経験者など、本当に素晴らしい方々が「農業」「学校」というキーワードに惹かれて来てくださった。ただ、僕自身が半年ほど経営に関わる中で、「これは中途半端な関わり方ではうまくいかないな」と感じるようになった。当時は、「応募者に熱量の高い人がいない」という認識をしていましたが、それは勘違いで、実は自分の熱量が上がりすぎていたんだと気づいたんです。
それなら、自分でやってみようと思った。それがちょうど1年前ですね。
ここには教育、農業、小売という3つの要素がある。それぞれに社長がいてもおかしくないレベルのことを、校長という立場の人間が全部やらなければならない。これは正直、ものすごく難しい。でも一方で、当校の農業分野には優秀なメンバーが揃っていて、農産物にも自信があったので、そこにチャンスを感じました。
これまで赤字が続いてきたのは、シンプルに「経営者」がいなかったからではないか、と。教育者としての校長に向いているかは分かりませんが、「経営なら自分がやれる」という感覚があったのは大きかったと思います。


再建0年目の成果
北原:牛乳販売の再開に始まり、昨年は花畑など、大きく動かれた1年だったと思いますが、振り返っていかがですか?ゃないですか。どうしたらそんなに人が集まるんでしょう。
丸山:成功は4割、失敗は6割くらいですね。
通常なら、参画する前にデューデリジェンスをして、財務状況や事業の可能性、やめるべきことを整理します。でも、ここはもう解散寸前のタイミングだった。だから、即座にプロジェクトを進める必要があったんです。
2024年は再建0年目、つまり調査期間だと思って取り組みました。テストマーケティングを重視していますが、「あの時ああしていれば」という反省を生みながら進めるといつまでも再建できない。大ゴケする可能性があっても、短期間で「何がいいのか」見極めるために徹底的に投資をしてPDCAを回しました。
昨年始めた花畑も、最初は正直そこまで気持ちが入っていなかった。でも理事長から「丸山さんが腹をくくるしかない。やるならとことんやった方がいい」と言われて、確かにそうだなと。そこから2週間ほど、ほとんど寝ずに全国の花畑をリサーチしました。
全国に何百とある花施設を分析し、特に何万人もの集客を継続している施設を徹底的に調べた。すると、ある法則が見えてきたんです。それは「きれいな花を咲かせているから成功している」のではなく、「人が動く時期に花を咲かせている施設が成功している」ということ。
はままつフラワーパークは春休み、ひたち海浜公園はゴールデンウィーク、あしかがフラワーパークも同様です。そこで、何に集客力があるのかを整理し、地元農家の方々と相談しながら冷涼な気候を生かして「八ヶ岳で夏に咲く花」を選び、花畑を作り上げました。
昨年一番の収穫は、「何が、いつ咲くのか」が分かったことです。30品種を試しましたが、それだけでなく、「これがこの時期に咲くなら、別の品種はこの時期だろう」という仮説も立てられるようになった。昨年は集客目的ではなかったものの、結果的に3万人ほどの方が来てくださって、手応えを感じました。
ただ、これは地域の方々、数百人ものボランティアの皆さんの力があってこそです。このとき実習生には、「社会や地域のために何をするかを考えて動けば、応援してもらうこともできるかもしれない」と話しました。「できることは何か」ではなく、「やるべきことは何か」を考えよう、と。地域の資源を作ろうとすると、こんなに多くの方が応援してくれるから、卒業した後も、このような考え方で社会や地域と繋がっていけるといいねと話したんです。

より解像度をあげていく
北原:ここからのシーズン、次に考えていることはありますか?
丸山:今は来年に向けたデスクワークと、全国への視察ですね。昨年、花畑は良かった。でも野菜は正直、全然ダメで大赤字になってしまった。
ITや人材、エネルギーなど、これまでいろいろな分野の経営をやってきましたが、農業は外的要因やリスクが圧倒的に多い。天候、病気、資材高騰など、読み切れない要素が多すぎるんです。花畑がうまくいった理由は、僕自身が毎日畑にいたこと。何がいつ咲き、どんな病気が出るか、何を対処すべきかを高い解像度で把握し、PDCAを回していました。一方で野菜部門は、報告を聞いて意思決定する形だった。解像度が低いまま進めてしまったんです。これは大きな反省点です。来年2月には野菜部門も全国を視察し、土壌から学び直すつもりです。経営成績に影響する因子を洗い出し、毎日リスクヘッジを考え続けています。まだ道半ばですが、地域の皆さんの応援があってこそ。応援は得ようと思って得られるものではない。そのことを日々実感しています。
学生に手渡せるものは何か
北原:昨年はイベントもかなり実施されていましたが、どのような狙いがあったのでしょうか?
丸山:12月にはクリスマスマーケットを2週連続、計4日間開催しました。ぼくらの短期的な再建戦略として、3つの柱を掲げているんですが、そのうちの一つが「人に来ていただいて、うちのおいしいものを食べていただく」ことです。そこで、きちんと利益を出していく。通販や新しい販路など、いろいろな手段は考えられますが、最初から飛び道具に走るのは違うと思っています。まずはここに来てもらい、食べてもらう。その積み重ねが一番の近道だと考えています。
もう一つは、校長として実習生に何を提供できるか、という点です。就農者の多くは、消費者と直接向き合って小売をする機会があまりありません。でも、うちの実習生には、この2年間で「お客さんを知ってほしい」と思っています。「おいしい」と言ってもらえる喜びもあれば、時には厳しい言葉をもらうこともあるかもしれない。でも、お客さんの笑顔や困った表情を見た上で、生産者になってほしい。イベントのスタッフも、実は半分くらいは実習生なんです。養鶏をやっている生徒には卵を売ってもらう。酪農の生徒には牛乳の試飲を出してもらう。野菜の生徒たちには野菜の加工品を販売してもらう。そうやって、実際に「売る」経験をしてもらっています。
昨年からは、毎週土曜日に直売所実習も導入しました。生徒たちが自分たちで作ったものを販売する取り組みです。すると、これが面白いくらいアイデアが出てくるんですよ。「やりっぱなし」にしたくなかったので、私たち経営陣も一緒にフィードバックをする会を実施しています。そうすると、鮮度管理や「どうしたらおいしく食べてもらえるか」という課題意識が自然と生まれてくるし、次につながる工夫も出てくる。もう一つ大事にしているのは、言葉は少し雑かもしれませんが、「儲かりそうだ」「これなら生活として成り立ちそうだ」と実感してもらうことです。農業を「仕事として続けられる」という手応えを、体感として持ってもらいたい。そこを強く意識しています。

経営とは利害の衝突を解消すること
北原:丸山さんにとって、「経営」とはどのようなものですか?
丸山:経営者が行う意思決定は、常に利害が衝突している状況の中にあります。例えば、利益が出たとき、それを株主に配当するのか、従業員に還元するのか。これは完全に利害が衝突している。人事異動ひとつとっても、希望が叶う人と叶わない人がいる。これも利害の衝突です。そして、利害の衝突を一つずつどう整理し、どう解消していくか。それが経営の仕事だと思っています。立てた戦略を、利害関係を整理しながら実行に移していく。そのプロセスこそが、経営者の腕の見せどころだと思います。
もう一つ大事なのが「解像度」です。
僕が経営する会社は今、従業員が1,100人ほどいますが、会社が大きくなると「人に任せられない」「任せたら失敗した」という話をよく聞きます。でも、僕は「任せること」と「自分の解像度を下げること」はイコールではないと思っています。だから、任せたとしても、一緒にやる仲間には徹底的にヒアリングをする。そして、自分自身は解像度100の状態で意思決定をする。経営とは、常に高い解像度で事業を進めること。そのために、利害の衝突を一つずつ解消していくことなのだと思います。
北原:なるほど。僕も胸に刻んで取り組んでいきたいと思います。
語る、発信する、そして未来を変えていく
丸山:僕の専門はコーポレートガバナンスですが、最近あらためて強く感じていることがあります。
日本ではコーポレートガバナンスというと「守り」の印象が強い。でも、僕はこれを「攻めの武器」だと思っているんです。株主や投資家、従業員、取引先、地域住民など、企業はマルチステークホルダーの中にあります。その意向を調整していくのは簡単なことではありません。でもこれからの経営者に求められるのは、そうしたステークホルダーに対してリーダーシップを発揮することだと思っています。「僕らはこうやっていきたい。だから理解してほしい。ついてきてほしい」と、自分の言葉で伝えることです。そのために、機会があれば積極的にメディアの取材も受けますし、従業員や業務委託の方々に対しても、半年に1度は長時間かけて、短時間のスピーディなものは毎月、自分の考えをきちんと語るようにしています。ステークホルダーに向けて語ることには、大きな意味がある。そうすることで、改革のスピードを落とさずに進んでいけると考えています。
新規就農者の輩出は、全国で取り組まなければならない課題です。今の子どもたち、そしてその次の世代が大人になるころ、日本の食料自給率は13~14%程度になるという試算もあります。そんな未来を考えると、就農を目指す若者を一人でも増やしていくことが不可欠です。だからこそ、就農を目指す人たちに「未来のある農業」を見せてあげたい。そのために僕が大切にしているのは、「自分自身が一番楽しむこと」。
「楽しそうだ」と言われることです。実際、本当に楽しい。夜になると「あれもやりたい、これもやりたい」と考えが止まらなくなって、どうやったら仕事のことを忘れて眠れるかを考えるくらいです(笑)。

I N F O R M A T I O N

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