


家を図鑑にするということ
それは、物語を紡ぐための実験
[ interview ]
株式会社イマージ
設計部 河野哲寛さん
TEXT BY TANAKA YUKIKO
[Prologue]
今回のゲストは株式会社イマージで設計を担当する河野哲寛さんです。この春、自ら設計した自宅が完成した河野さん。さまざまなこだわりはもちろん、実験的要素も満載のご自宅にお邪魔しました。家作りの思想や仕事への向き合い方、施主となって見えた視点など、前後編に渡ってお送りします。

サラリーマンからジェネラリストに。
そしてスペシャリストへ
出身は東京の東大和市というところです。大学では法学部でしたが、初めて登った北アルプスの槍ヶ岳に言葉が見つからないくらい感動して、学生生活はずっと見たことのない景色を求めて山登りや旅をしていました。卒業後はアウトドアメーカーに入社し9年間大阪で勤務しました。最初は総務とかの仕事をしていたんですが、広報部に異動してからは日本全国で自然を活用したイベントや環境資源を使った町おこしといった、地域活性化のコンサルティングみたいなことをさせてもらってたんです。でも本質的なところをなかなか深掘りできずにいるなという葛藤がありました。
なぜ建築に?
将来を考えたとき、単なる感覚ではなく、学問や経験に裏付けられた確かな技術と知識で、自信を持って社会や人のために働きたいと思ったからです。 また、私は日本中を旅する中で、目に見える豊かさ以上に「時間や空気感、人との触れ合い」といった目に見えないものを大切にしたいと思っています。建築、特に住宅は、人が幸せに生きるための「最小単位の空間」です。その空間を一から設計し、住まい手との対話を通じて作り上げていくプロセスに強く惹かれ、33歳という年齢で未経験ながら設計を0から学ぶ決意をしました。


森と人の生活をつなぐ建築
やっぱり自然が好きで、長野県に移住したかったのですが、建築士としての基礎を学ぶための前段階として、2年間岐阜県立森林文化アカデミーに通いました。木造のメインの材料である木のこと、木造建築の基礎である構造や温熱環境など、住まい手が安心して暮らすことができる家づくりについて学びました。単に建物を建てるのではなく、「森と人の生活をつなぐ建築」を設計したいと考えています。地域の木材を活用し、森林資源を循環させることで地域に貢献したい。そして、信州の厳しい気候の中でも、住まい手が「根を張り、丁寧な生活を再構築できる」ような、安心で心地よい居場所を創り出していきたいです。
そのために大事なことはいっぱいありますが、それらはつながっていると思っています。まずは暮らしとか空間に関することが中心軸にあって、その両脇に自然と性能。耐震性能・温熱・省エネを大事にした設計をすることで住まい手の安心や健康につながることが理想です。住まいをトータルでデザインできるようになりたいので、プランニングや図面を描くだけじゃなく構造計算や省エネ計算も自分でしています。スペシャリストになりたいと思って設計の道を選んだのに、気づけばジェネラリストに。でも今はそういう体験をしていくことで、吸収できるのかなと思っています。全部を知っていけば最終的にはスペシャリストになれるのかなと。


物語を持つ素材と家
今回自宅を設計しましたが、いろんな知識や新旧のやり方など、いろんなことを混ぜてやりたかったんですよね。ぼくはストーリーが大事だと思っているんです。外壁は焼き杉でやりたいと思ってたんですが、専門学校時代からの友人が佐久で木こりをしてるので、彼が切ったカラマツを使って、耐久性を持たせるために自分たちで焼いてみました。素材がどこから生まれてどう使われているか。それをどう活用してどういう見た目になったのかっていうストーリーがあるといい。
既製品も使わせてもらったので、自分で作ったものとの風合いや施工の手間の違いが知れたのもよかったです。また、内装仕上の珪藻土左官は妻がやりました。初めての体験でしたが、職人さんに教えてもらって仕上げのパターンのところだけやったんです。味があっていい雰囲気ですよね。今後はただ出来上がったものを住まい手に渡すんじゃなくて、その過程の一部を一緒に体験してもらって、家づくりに参加してもらう“コト”化をサービスとして提案したいです。

図鑑としての家
僕は木がとても好きなので、今回の家づくりではとにかくいっぱい木を使いました。スギ、カラマツ、ヒノキ、クリ、アカマツ。いろんな材種を使いましたし、同じ木でも場所によって節の有無を変えて使っています。お客さんに素材の打ち合わせをするとき、「大きな面で見るとどうなります?」ってよく聞かれるんです。面で見ると見え方が全然違うんで、その違いがわかる図鑑みたいな感じを意識しました。
あとは薪ストーブや空調、設備もいろいろ組み合わせて体感できるようにしています。信州の気候でもこの家の性能で薪ストーブだけだったらこういう暖かさが実現できますよとか、この性能だったら床下エアコンと換気システムでうまく回りますよっていうのをちゃんと説明できるようにしたかったんです。
[前編 終]


※次回イマジンでは、できた家に住んでみた住まい手としての視点をお届けします。
I N F O R M A T I O N

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