湯煙とともに癒しを運ぶ観光の切り札「温泉」配達人

[VOL.19]
株式会社イージス観光 代表取締役

篠原美輝恭さん

TEXT BY TANAKA YUKIKO


八ヶ岳山麓の恩恵である湧水や温泉が各所に湧いている茅野市。立ち上る湯煙、鼻腔をくすぐる温泉成分の香り。「温泉」は人々の疲れを癒し、さまざまな効能をもたらす。旅先に温泉があるというだけで心躍る日本人は多いはずだ。
そんな観光の切り札ともいえる「温泉」の配達をメイン事業としている株式会社イージス観光。代表取締役の篠原美輝恭(みきやす)さんは白樺湖でホテルなど観光業を営む家に生まれた。篠原さんのお父さんが経営するホテルには温泉がなかったことから、30年ほど前、近くにできた温泉スタンドから温泉の運搬を開始。それが温泉配達の始まりだ。


観光業から温泉配達へ

イージス観光は父親が立ち上げた会社です。元々はホテルやバスなどの観光業全般を行っていました。ぼく自身白樺湖で生まれ育って、大学進学のため一旦は県外に出ましたが、長男でしたし、若い頃から当然後を継ぐもんだと思っていましたね。なので大学卒業後にもう一度ホテルの専門学校に入り、その後東京のホテルで修行。26歳で白樺湖に戻ってきて家業に入りました。
温泉の噴出が多い長野県であっても温泉が引ける施設は限られるので、自分のホテルのために始めた温泉の配送が評判を呼び、10年ほど前からは温泉の配送がメインとなっています。取引先は主にホテルやペンション、企業の保養所といった宿泊施設、他に福祉施設など。4000ℓ用と8000ℓ用のタンクローリー計3台を稼働して届けています。

かんたんな仕事、だからこそ真摯に向き合う

私たちのやっている仕事は、言ってしまえば温泉を汲んで運ぶだけのかんたんな仕事なんです。ただ、温泉という自然相手のことでもあるので、どうしようもないこともある。だからこそお客様にはもちろん、源泉の権利を持つ方たちにも真摯に対応をしようと心がけています。
実は近年利用していた温泉スタンドの温泉の噴出量が減ってしまい、別の源泉のお湯を導入しなくてはならなくなりました。宿泊施設や福祉施設では、使用する温泉の泉質が変わってしまうとその度に保健所に届出が必要だったり、泉質によってボイラーなどの設備の寿命などが変わったりすることもあるので、使用する温泉を変えるというのは簡単なことではないんです。でもありがたいことに最終的にはほとんどのお客さんが変更に応じてくれました。大変な手続きをしてでも使っていただけるのはありがたいことです。やはりそれだけ「温泉」が求められているんだと思います。
あとは、うちはほぼ家族経営で小規模なので、急な依頼にもなるべく応えようと思っています。その甲斐あってか、新規の問い合わせも来ますし、単発で個人の別荘に配送することも増えています。

今は自分でホテルを経営しているわけではないですし、納入に行っても裏の方で作業するだけなので、直接温泉に入ったお客さんの声を聞くことはありません。でも各施設のスタッフさんたちに聞くと、やはり温泉があるというのは喜ばれているようなので、うれしいですね。特に福祉施設なんかでは毎日入ってもらえるので、温泉の効能も実感していただけるみたいです。

かんたんな仕事、だからこそ真摯に向き合う

県内で温泉の配達をメインにしている会社はうちだけなんじゃないかなと思っています。競合がいないんです。長野県にはたくさんの温泉がありますけれど、こうして外部の人が汲める源泉というのは多くないので、圧倒的に仕入れられる場所がないですし、これからもあまり増えないのではと思っています。
今後は一般家庭向けの温泉宅配に参入しようかなと思っています。20ℓの温泉を宅配便で送り、それを一般家庭のお風呂に入れてお湯で薄めて楽しめるんです。一般の浴槽って大体200ℓ前後の容量です。たった20ℓと思うんですけど、結構温泉の効果が楽しめるということで期待していて、これから準備を本格化するところです。

I N F O R M A T I O N

株式会社イージス観光
〒391-0301
長野県茅野市北山白樺湖3418番地19
0266-68-3200

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生きているといろんなことがある。
嬉しかったり。悲しかったり。
失恋の夜が明けたかと思えば、ひとめ惚れの朝が来たり。
成功したあとには、 失敗ばかりの日々が続いたり。
あんなに前向きだった気分も、
ふとした拍子にやんなっちゃったり。

いつだってぼくらは、
泣いて笑って、走って転んで汗まみれ。

でも、そのたんび、
いまより良くするもっと冴えたやり方。
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いましか望めない遠い風景。
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そう、ぼくらは“いまを生きる人”なんだ。

そんな、イマジンたちに贈ります。

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