[VOL.24]
太陽堂田村煙火店 | 西田 昌弘 さん
TEXT BY TANAKA YUKIKO
夏の夜空を彩る大輪の花、たとえその姿が見えなくても、ドンという打ち上げの音が聞こえると浮き足立つ。打ち上げ花火と日本人の夏とは切っても切り離せない。茅野市内に打ち上げ花火を製作している会社がある。急坂を上り、民家が途絶えても尚登ると、かすかに火薬の匂いが漂ってくる。茅野市米沢にある太陽堂田村煙火店の花火工場だ。ここで25年間花火製作に携わってきた西田昌弘さんに、花火師の仕事について伺った。
花火との出会い
長野オリンピックの年から花火を作っています。以前働いていた運送屋で、ここの花火を花火大会へ運ぶ仕事をしたことをきっかけに、最初は打ち上げの手伝いをしていました。実はそれまでは2回くらいしか打ち上げ花火を見たことがなかったんです。もともとものづくりが好きだったんで、作るのも楽しそうだなと思って転職しました。
この会社は会長のおじいさんが始めたそうです。今は花火師が僕を含め3人。1年間に1万発くらい作ってるんじゃないかと思います。この辺りは昔から玩具とか線香花火を内職で作っている家がいっぱいあったと聞きます。今も長野県は気候も乾燥していて適してるからか、全国的にみても製造業者は多い方なんです。
コロナで花火大会は減りましたが、年間10カ所くらいは打ち上げに行きます。最近は地元での仕事が増えました。イベントもそうですが、旅館や学生の林間学校やスキー教室でも依頼があります。予算で言えば5万円くらいから上げられるんです。今夜も車山の方で打ち上げがあるんですよ。
花火を作る
火薬は生石と炭と硫黄なんかからできています。昔はその炭も作っていたようですが、今は火薬を調合するところからスタートします。
割薬(花火の玉を上空で開かせるための火薬)は1日でできますが、星(花火の花弁となる部分)は火薬が何層にもなってるので、大きさによって日数が変わります。できた火薬を玉に詰め、紙に糊をつけたものを貼っていきます。乾かしては貼り、乾かしては貼り。大きな玉になるほど貼りの回数も増えていきます。発注が来たら組み合わせを考えて、着火線をつけて送り出していきます。
よく「花火屋さんて冬何してんの?」って聞かれますけど、こうやって1年かけてずっと作ってるんです。
花火作りの魅力とこれから
花火作りのいいところは、作るものを自分で決められて全部の工程を自分でできることですね。中でもいい花火を作るのに一番肝心なのは、割(薬)と貼りのバランスだと思っています。いくら完璧に詰めても割と貼りのバランスが悪いとすぐ崩れちゃうんです。星が少しずれていてもそのバランスが完璧だったらきれいに開く。最近ではお客さんから「あそこで打ったあの花火を打ってくれ」と注文されることもあります。うれしいんですが、同じように作っても同じように仕上がらなかったりするから難しい。終わりがないんですよね。でもだからおもしろいんだと思います。
玉を詰めるのは誰だってすぐできますけど、全体的なことができるようになるには最低5、6年はかかったかな。できるようになったと思っても、次にまたやってみるとあれ? なんか違うと思う。だから後進も育てていかないといけないんですけどね。あまり大所帯になっても良くないとは思うんですが、その辺も考えていかなきゃいけないと思っています。
I N F O R M A T I O N
有限会社 太陽堂 田村煙火店
〒391-0216 長野県 茅野市 米沢 1204-3
TEL 0266-72-2896 FAX 0266-73-6653