豊かさが生んだフードロスの闇
調理の魔法でおいしく解決したい!

IMA-ZINE INTERVIEW VOL.28

元気なまちで、今(いま)を生きる、元気な人(じん)にインタビューするコーナー。

菜のだ(Naganoの大地)
マネージャー 石原 彩香
Sayaka Ishihara

INTRVIEW WITH KITAHARA JACKSON YU   TEXT BY TANAKA YUKIKO


2022年7月茅野市仲町に食の循環をテーマとした新しい飲食店「菜のだ」がオープンしました。ここではさまざまな事情で廃棄されてしまう野菜や卵、肉などを使った料理やスイーツを提供しています。マネージャーの石原彩香さんはそうした日本の農業の現実を知ってからたった1年という驚異のスピード感でこの店をオープンされました。それほどまでに彼女を突き動かしたものはいったいなんだったのか。日本の農業の現状とこのお店にかける思いをお聞きしました。


食べられるのに捨てられてしまうレタスの山

── 菜のだをはじめられたきっかけを教えてください。

石原彩香さん(以下、石原) 高校のときの同級生数名が農業をやっているんですが、その子たちが作った野菜がさまざまな事情で捨てられてしまうのを知ったんです。それが1年ほど前のこと。実際に畑で廃棄されるレタスが山のように積み上がっているのを見て、これはどうにかしなきゃいけないぞと思いました。それがきっかけです。
それからもっと知りたいと思って自分の足で酪農や養鶏、果樹園やお米農家にも行って現状を見て回りました。

──どういう事情で食べられるものが廃棄されてしまうんですか?

石原 今日本の農家さんて耕作貧乏なんて言われるくらい数を作らないと儲けにならない。しかも取れすぎたら市場の価格を守るための調整廃棄っていうことで、捨てなくてはならないんです。
あとほんのちょっとだけ傷がついているとか。卵なんかはフンや産んだときの血がついているだけで、中身は変わらないのに市場には出せなくなってしまいます。人間だって赤ちゃん産むときにきれいな状態で生まれてこない。汚れがつくのは当然のことなのに。
言うならば今の日本の食って、芸能人を食べてるようなものですよ。一般人は表に出られなくて、芸能人しか私たちの口に入らないって感覚。きれいなものしか食べてないんです。味は一緒なのにね。

── 豊かになりすぎたことで選りすぐり、きれいなものしか選ばない私たちが育ってしまっているんですね。

石原 そうなんです。こういうことをやりたいと思ったもう一つには次の世代の子どもたちに伝えていきたいというのがあります。ある時、「キャベツ」というお題で千切りキャベツの絵を描いちゃう子を見たんです。子どもが野菜の原型を知らないということに衝撃を受けました。しかも長野県内の話です。私は勝手に、長野は田舎だからみんな野菜のことをよく知っているだろうと思ってたんですけど、田舎の子どもでさえ野菜の原型も知らないという現状に危機感を覚えました。

共感と協力、直感で茅野に出店!

── 松本のご出身だそうですが、なぜ茅野にお店を構えようと思われたんですか?

石原 最初は地元の方で物件を探していたんです。でもなかなか条件にあう場所がなかったのと、一番大切なテーマの部分を説明してもあまり周囲からの理解が得られていない気がしたんです。話せば「そういうのがあるなら買うよー」と言ってはくれるんですが、深く理解して協力してくる人があまりいなかった。それで茅野に拠点を置くことも考えてみようと思ったら、不動産の部分から建物の部分までいろんな人が協力してくれて。こんなに協力体制を得られるところは他にはないと直感で決めました。
もう一つには自分が東海大三高校(現在の東海大諏訪高校)に通っていて、高校生の頃近くに遊ぶ場所がないなって思っていたんです。高校に通うだけの毎日で青春をしてないって感じがしていました。だから母校の後輩たちがお店に寄ることで少しでも楽しい思いをしてもらえたらという気持ちもあります。

── 本当に素晴らしいコンセプトですが、実際のメニューにはどのように反映されていますか?

石原 ドリンク以外の全商品にロスのものが入っています。それがここのテーマなんで、それを壊すようなものは作っていません。
例えば卵を産むための鶏は、質のいい卵を産まなくなっちゃったら廃鶏といわれて産廃になっちゃうんですよ。人間の欲のままに命を終わらせてしまうんです。そんな悲しい命の終わり方ってないなって思って、菜のだのカレーにはその肉やガラを使っています。卵を産むだけじゃなくて食の循環ということで人間の栄養になるためにカレーのルーになってもらっています。

食も人も、循環の中で長く生き続けるために

── 今後の展望をお聞かせください。

石原 捨てられてしまう命を循環させたいというのはもちろんですが、お店自体も持続可能なお店にしたいと思っています。それには休みはちゃんととるとか、SDGsとも絡めてジェンダーの平等も大事にしていきたいと考えています。子どもを産むと女性ってどうしても社会的弱者になっちゃうと思うんです。そういう立場の女性が活躍できる場所をここで作っていきたいと思っています。
廃棄されてしまう野菜って一度にすごい数なんです。今は仲間3人でその加工をしているんですが、とても手間がかかります。そういう仕事もきちんと対価に変えて仕事を回せるようになればと思うんです。そうしたら関わってくれるママたちが自然と食の循環の大切さを子どもたちにも伝えていってくれるではと思っています。

I N F O R M A T I O N

菜のだ(Naganoの大地)
〒391-0005
長野県茅野市仲町16-4061
tel. 0266-75-2566


インタビューの様子は動画でもご覧いただけます。

>“いま”を生きる人へ。“いま”の生きた情報を。

“いま”を生きる人へ。“いま”の生きた情報を。

生きているといろんなことがある。
嬉しかったり。悲しかったり。
失恋の夜が明けたかと思えば、ひとめ惚れの朝が来たり。
成功したあとには、 失敗ばかりの日々が続いたり。
あんなに前向きだった気分も、
ふとした拍子にやんなっちゃったり。

いつだってぼくらは、
泣いて笑って、走って転んで汗まみれ。

でも、そのたんび、
いまより良くするもっと冴えたやり方。
いまから始まるバラ色の近未来。
いましか望めない遠い風景。
考えて、思いえがいて、考えて。

考えることは生きること。ぼくらはいまを考える。
そう、ぼくらは“いまを生きる人”なんだ。

そんな、イマジンたちに贈ります。

CTR IMG