世代を超えて鳴き続ける木遣の唄

[VOL.05]
茅野市木遣保存会 波間 登さん
Noboru Hama

TEXT BY TANAKA YUKIKO


PROLOGUE

山の神様お願いだ〜
祭りの喧騒をも突き抜けるような木遣の声を合図に巨木が動き出す。
諏訪の人々の心を昂ぶらせ、巨木を動かすエネルギーとなる木遣唄。楽譜のないこの唄は、人から人へと口伝えで受け継がれていく。茅野市玉川地区木遣隊の波間登さんは木遣の名手であると同時に、子どもから大人まで幅広い世代に木遣りを教える指導者でもある。木遣とはなんなのか。それを後世につなぐ役割をどう感じているのかを伺った。


口伝えが人と人をつなぐ木遣の技

─ 波間さんはどのように木遣を覚えましたか? また思い出があれば教えてください

生まれは茅野の駅の近くだったので、お祭りだー御柱だーっていうと大人たちが近くに集まって夜遅くまで木遣を練習していてね、それが家の中まで聞こえていたんです。それを聞いて自然に覚えた感じですね。親父ももちろん木遣をやっていて、私が鳴いてみせるとお前の節回しが一番いいって褒めてくれました。
その頃もう木遣コンクールがあったんです。当時は茅野駅も古い平屋の駅舎で、なんとその駅の屋根にハシゴをかけて登って鳴いたんですよ。見にきた親父や母ちゃんが下から「ガンバレー!」なんて言うと、子どもだから余計上がっちゃう。そんな思い出があります。
その後茅野に木遣保存会ができたときに、周りから勧められて入りました。今着ているのがそのときの法被です。
木遣は楽譜がないので口伝えで伝えていくんです。基本の節回しはありますが、細かいところは伝える人、鳴く人によって違います。でもそれでいいんですよ。正解なんてありません。

─なぜ玉川の木遣隊を指導することになったのでしょうか?

平成7年に玉川に引っ越してきたんです。前回の御柱祭のとき、玉川地区の大総代が後継者を育てるために木遣隊を作りたいからぜひ協力してくれと頭を下げにこられました。そうしたら70人もの大人や子どもが集まってくれて、それから練習するようになったんです。
今年だって60人くらい集まりました。今年は本一(諏訪大社上社本宮一の柱)の柱だったから、本宮正面の石段にみんな並んで鳴くことができた。本宮でも他の柱だったり前宮だったりしたらそうはいかなかったから、みんな喜んでいましたね。
地区の木遣隊を持っているのは玉川だけなんで、他の地区からよく羨ましがられます。

心を一つに、心を揺さぶる木遣の力

─木遣とはどんな役目のものなのでしょう

木遣というのは、心を一つにして御柱を引っ張ってもらうためのものです。ただ鳴けばいいってわけじゃない。あの甲高い声を出すには特殊技巧といって、喋るのとは違う声の出し方があるんです。声量、音色、気品、いろいろと大事な要素があって、氏子に感動を与えて奮い立たせる力がある。人の心に訴えかけるものなんですよね。

子どもに木遣を教えるには、いいところをとにかく褒める。そうすると子どもは自信を持ってどんどんうまくなるんですよ。いや、大人だってそうだな。褒めれば必ず伸びる。
それと練習にはね、年齢の制限とかをつけないでどんな小さい子でもおいでって言っているんです。障害がある人がくることもある。それでいいんです。練習の最中、小さい子が駆けずり回っていたら親御さんは気になると思うんですけど、そんなこと気にしなくっていい。そういう子に「ほら鳴いてみろ」って振ってみると、ちゃーんと鳴くんですよ。子どもっていうのは遊びながら聞いているもんなんです。

御柱祭本番、僕はこどもたちを引き連れて歩きます。大人の木遣隊は先に行って所定の位置で鳴きますから、子どもたちは別で連れていって鳴かせるんです。あらかじめ場所を見ておいてよさそうな櫓にお願いしておく。そうすると櫓の方でも待っていてくれてね、「ほらここだぞ」って子どもたちを上げてくれて鳴かせてくれる。子ども木遣は花形だと思っています。
ただ子どもたちを引率していると私は鳴けません。鳴きたいと思う気持ちはあります。でもね、気持ちはあるし大変だけど、こっちの方がいいなあと思っているんです。保護者の皆さんにも協力していただいて、マイクを持ってね、全員の声を聞かせてやるんですよ。いい思い出を作ってやりたい。子ども達がうまく鳴いて、柱が動くと涙が出るんだよね。

世代を超えて鳴き続ける木遣の唄

─2022年の御柱祭では新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、残念ながら子ども木遣隊は鳴くことができませんでしたね。

今回も鳴かせてやりたかった。また6年後にと思うかもしれないけど、小学校高学年や中学生くらいになると変声期もあったりして難しいんです。寂しいけれど、次は練習でうろちょろしていた小さい子たちが出てきてくれる。それに地元にさえいれば大人になってまた参加してくれることもあるんです。そういうのは本当にうれしいですよね。地区の人や子どもたちは僕のことを覚えてくれて、どこで行きあっても声をかけてくれる。そうすると木遣りをきっかけに世代がつながっていることを実感します。

─ 波間さんにとって木遣とは。

人生の笑顔かなあ。みんなと私の喜び。楽しみです。仲間作りの木遣。
御柱終わるまで大変だねって言われるけど、これこそが僕の人生だと思っているし、それが楽しみ。ごしたいとか疲れたとかは思わないし、口にも出さない。
教えるときは「これをあなたの宝物にしてください」という気持ちでやっています。木遣を通して僕の方こそいろいろなことを教わっている。これからも元気でがんばります。

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