[ 特集 ]白樺からこの“まち”の未来を考える。

IMA-ZINE INTERVIEW VOL.40

株式会社 池の平ホテル&リゾーツ
代表取締役社長 矢島 義拡
Yoshihiro Yajima

INTRVIEW WITH KITAHARA JACKSON YU   TEXT BY TANAKA YUKIKO


日本の#レイクリゾート
旅の歓びと地域を守りたい

ホテルはもちろん、遊園地やスキー場などさまざまなコンテンツを取り揃え、家族連れなどから絶大な支持を誇る白樺リゾート池の平ホテルでは、2023年4月、さらにその魅力をアップさせた新本館をオープンさせた。観光業全体が翻弄されたこのコロナ禍にあって、約2年にも及ぶ大工事に踏み切り、大胆なスタートを切った池の平ホテル。そこには創設者が白樺湖畔の観光開発にかけた思いへの原点回帰と、これからの時代の旅の形を見据えたレイクリゾートとしての新しい挑戦が詰まっていた。


過酷な開墾の歴史、
そこに差し込む観光業という光

北原ジャクソン友(以下、北原)白樺湖の歴史を教えてください。

矢島義拡さん(以下:矢島)白樺湖や隣りの蓼科湖、御射鹿池なんかはすべて農業用のため池なんです。水を一旦溜めて、温めてから農業用水に使うために作られたものでした。白樺湖は当初「蓼科大池」と呼ばれていました。戦前から工事が始まりましたが、戦中資金難や戦争で止まってしまいます。しかしこの下流にある柏原地区の方たちが尽力してなんとか完成しました。完成後に農地開拓のために人が入ってきた。そのなかに祖父もいたんです。
ため池が完成して10年はひたすら農業用に開墾していたと聞いています。でも寒すぎて農業としては成立せず、現金収入はまったくない状態だった。100人200人といた開拓の人も次第に山を降り、最終的には4家族になってしまったそうです。
ある時、蓼科山に登った登山客に請われて厩舎に泊めたことがあったそうです。その時にお礼にと渡されたのが初めての現金収入でした。それをきっかけに観光が一つの選択肢になってきた。ここが好きだからというよりもっと泥臭い、生きていくための手段だったんです。
最初は「白樺山荘」という宿で、同時に湖畔にキャンプ場を作って、昔は結氷したのでスケート場を作った。冬はスケートやスキー、夏は登山。目的になる要素を作って来てもらう。泊まるだけじゃない観光という原点がここにあります。

北原ここに戻ることはいつ決めましたか? その時はどんな状況だったんでしょうか?

矢島明確にいつっていうのはないんですよね。家業として身近に接してきて、大変なことも知っていたけれどおもしろそうだなと思っていました。祖父や親は好きなことをしていいと言ってくれていたんですけど、(他の職業に対しては)自分の欲求が動かなかったんです。
戻って社長に就任したのはちょうどリーマンショックの直後くらいでしたね。うちのホテルの売上も落ちていましたし、周りを見れば廃業や廃屋が増えていて暗いムード。でも落ち込んでいる会社じゃない、地域じゃないというのを内外に示さないといけないと思っていました。

コロナ禍からの挑戦 #レイクリゾートの確立

北原コロナ禍で観光業は大きな打撃を受けたと思いますが、その時にあえて新本館を建設されました。大変な決断だったと思います。どのような思惑があったのでしょうか。

矢島緊急事態宣言で移動がなくなったのはショックでした。不要不急の外出は控えましょうというのが、旅はやめましょうとなり、観光は不要不急の産業だと変に結びついちゃった感じがありましたが、そうじゃないよというのを示したかった。旅は必要だし、そのタイミングじゃなきゃいけない人もいる。
そういう文脈で言えば今回のコロナでは狭い意味の旅は減ってしまったけれど、逆に旅の捉え方、旅のあり方は広がりました。
新本館の建設で一番やりたかったことは、じいちゃんや親父がやってきた大事なことをちゃんと翻訳することです。
ここは湖を最大限に利活用するところからスタートしました。祖父がこの土地の魅力は何かと考えてできたのが湖畔のキャンプ場とスケート場だったのであれば、それが一番の強みであるはずなんです。でもその後いろんなものを作ってきて、湖との距離が遠くなっていました。それをもう一回ちゃんと湖、山、空の価値を提供するというところに立ち戻りたいと思ったんです。それをレイクリゾートと名付けました。

2つ目には、地域や長野県の魅力を発信すること。今回イマージさんには「信州五感のショーケース」というコンセプトを元に「しらかば仲見世」エリアのブランディングから、「湯上がりラウンジ・しらかばマルシェ」の設計施工まで手がけていただきました。しらかば仲見世では信州の郷土料理や地酒、工芸品に触れたり購入したりすることができるだけでなく、角打ちスタイルの屋台でお酒や軽食を楽しむことができます。また昔懐かしい縁日が並び、大人から子供まで思い思いの時を過ごすことがでるようになっています。
当社のスタッフや地域の方のシビックプライドとして、この地域のいいものとしてご紹介できる組織や背景が絶対必要だと思っていたんです。例えばこの地域の方は飲みに行くところがありません。なので普段から飲み会などに気軽に利用してもらいたいですし、お客さまとスタッフが一緒に飲んでいても違和感がないと思っています。別荘の方にも便利だなと感じていただければ、白樺湖の物件は大事にしようと考えてもらえるのではないかと思うんです。おかげさまでお客さまにもそうしたバックボーンをきちんと感じ取っていただいているように思います。
さらにそういう場面のとなりで地域の業者さんと商談もできることもうれしいんです。コミュニティ感のある雰囲気をお客さまに楽しんでいただきつつ、地域を生かす商談もできる場。BtoCだけでなくBtoBにもなる掛け算。これぞ五感のショーケースという感じがしています。

これからの旅の価値観に応えるために。

もう一つには持続可能な地域社会を作りたいと思ったんです。コロナの時の旅の広がりやライフスタイルの変化。暮らすように旅する感覚。色々なコンテンツや予定を立ててこなしていく旅もいいですが、シンプルに豊かな時間を過ごす旅が広がっていったらいいなと思います。そのためのロケーションや時間、空間を用意したかったんです。
もともとはこの建て替えは2025年完成の予定で計画していました。しかしコロナ禍に突入してしまった。コロナが収束して再びお客さまが来られるようになってからまた建て替えのために収容人数を減らすというのはできないと思ったんです。やるならコロナ禍中にやるか、建て替えそのものをやめて今ある施設を大事に更新しながらいくか。でもコロナが終息してお客さんが来てくれる状態になったときにはレイクリゾートを楽しめる準備をしておきたいと思ったんです。
祖父から受け継いで、2人で50年、100年という時間軸でのディベロッパーとしての立ち位置。それと超短期的に見て今日明日絶対に会社を潰さないよう経営するという経営者の立場。これをもっと上手く両立してできる器になっていきたいと個人的には思っています。

ツェルマットに見た観光のあり方、そして理想の村の姿。

中学生の時に祖父にスイスのツェルマット連れていってもらいました。移住希望者も多く、住民票を取るのに長い順番待ちがあるという人気の街です。
観光業ではだいたい1万人のお客様を1000人のスタッフで対応するのが目安になります。しかしツェルマットでは6000人のお客さまを6000人のスタッフが対応している。それにはそれだけの単価を頂かないといけないわけです。それが成立しているということは、それだけその地域の魅力を認めてマーケティングをしてそれが成功しているということでもあります。
その時点で「村づくり」というはっきりとした言語化はできなかったんですけど、ヨーロッパ人のバカンスを目の当たりにして、贅沢だなー、と思いました。取れても3日。大体1泊2日で家族旅行を成立させようとしている日本人にはこの豊かな時間の考え方はない。日本人てめちゃくちゃ働いてがんばってるのに、これでいいの!? っていうのが当時の思いでした。

この地でも、そういう部分を導入していくためのポジションをやりたいと思ったし、やれると思っています。
当社はお客様第一主義なんです。その上で僕は会社第一主義。大事なことでこれは変わらない。その上で会社としての役割と存在価値も考えています。それこそが土着型のディベロッパーだと思っているんです。この地域で事業をされる方が増えていってほしいし、うちのメンバーもスタッフであると同時に地域の一住民としての顔が出せる環境づくりが絶対必要。事業者も住民も白樺湖にどんどん増えていってほしい。そうしていかないと観光地としての魅力が厚くなっていかないと思っています。

I N F O R M A T I O N

池の平ホテル&リゾーツ
〒391-0392
長野県北佐久郡立科町芦田八ケ野1596
tel.0266-68-2100

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“いま”を生きる人へ。“いま”の生きた情報を。

生きているといろんなことがある。
嬉しかったり。悲しかったり。
失恋の夜が明けたかと思えば、ひとめ惚れの朝が来たり。
成功したあとには、 失敗ばかりの日々が続いたり。
あんなに前向きだった気分も、
ふとした拍子にやんなっちゃったり。

いつだってぼくらは、
泣いて笑って、走って転んで汗まみれ。

でも、そのたんび、
いまより良くするもっと冴えたやり方。
いまから始まるバラ色の近未来。
いましか望めない遠い風景。
考えて、思いえがいて、考えて。

考えることは生きること。ぼくらはいまを考える。
そう、ぼくらは“いまを生きる人”なんだ。

そんな、イマジンたちに贈ります。

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